「吹雪の漁村」小坂幸平 横殴りの猛吹雪が、漁村を襲っている。厳しい日本海の冬に閉ざされながら、耐え忍び、必死に生きる漁民の生活感がひしひしと画面から伝わってくる。そのリアリティのチカラがすごい。ストロボを使ったのも効果的だ。後幕シンクロすることと、光量をもう少し弱くすることに工夫を加えれば、さらに良くなる。(鈴木一雄 以下同)
厚い雪に覆われた残雪のブナ林に、ようやく遅い春が訪れた。その季節感が、臨場感たっぷりに表現されている。何といっても、画面手前に残雪の大きな亀裂を大胆に配置したことが成功している。そのことで、豪雪の様子がしっかり宿った。あとは、亀裂の中の暗い部分の表情をもう少し引き出したいところだ。
作品を見た瞬間に、衝撃が走った。おばあさんだろうか。寒い冬の日に墓参りする姿に無条件に心が打たれる。強風が吹きすさぶ環境は傾いている木々の姿でわかり、大地に置かれている墓の様子から、昔の厳しい生活がしのばれる。作者が見ず知らずの墓参りに訪れる人を待っていたか否かはわからないが、圧倒的な物語性がある。
何の変哲もない日常空間でありながら、どこか不思議な非日常性が宿っている。一言で言うならば、そのような魅力がこの作品の持ち味である。心を柔らかくしながら、感性のアンテナを張り巡らせ、小さな発見を大きな感動に変換させて描いている様子が伺われる。下部の人工物の入れ方など、フレーミングの工夫に余地があろうか。
本当に見事な光芒である。雲海と朝日の二重奏の中に光芒もとらえられていて、それが画面に一味違った変化を生み出している。太陽付近のハイライト部を外した構成といい、ハレギリをしている工夫といい、完成度の高い作品を追及する姿勢が現れている。画面右上の重たさをどう軽減するか、難しい課題にも挑戦してほしい。
収穫したばかりの稲穂をついばむ四鳥四様の姿がバランスよく配置された微笑ましい1枚。多くの審査員が高く評価した。(大野明 以下同)
干上がったダムであろうか。藻の緑が残る亀甲模様の地割れを絵にしたセンスが良い。水が残っているところのグラデーションを生かすのも一策。
鹿に飛びかかろうとしているのはトビでしょうか、それともタカ? 大きく広げた翼と鋭利な足先、猛禽類特有の獰猛さが伝わってきます。そして招かれざる来訪者に身体をこわばらせる鹿たち。これらの要素を夕暮れどきの逆光を利用して影絵のように単純化したことで、動物たちの一瞬の緊張をあますことなく伝える写真に仕上がっています。(小林修 以下同)
動物園で砂遊びに興じる親子の象。子供よりも親の方がテンション高く遊んでいるのでしょうか、絡めた前脚や鼻から力強く吹き散らした砂の量からその興奮した様子が伝わってきます。反逆光の光線と、暗い背景を選んだことで、吹き散らされた砂と象の体毛の質感がとてもクリアに表現されています。
目を閉じて顔を寄せ合う親子の猿。タイトルは「仲良し」となっていますが、写真からは親猿の子猿へいだく強い愛情や、その愛情に包まれて大きな安心感のなかにいる子猿の心情のようなものが伝わってきます。仲がいいというだけではない、深い慈しみに包まれた写真です。有名な撮影地ですが、シンプルで訴求力のある写真に仕上がっています。
アオバズクは新緑の季節に飛来する夏鳥。大木の樹洞に巣作りすることが多く、神社や仏閣の敷地内で繁殖することも多いといいます。この写真もそんなシチュエーションで撮影されたのでしょうか。まばゆいほどの新緑を背景に、親鳥に守られるように樹内にたたずむ幼鳥たち。キョトンとした表情がなんとも可愛らしいです。
タンチョウヅルといえば優雅な求愛のダンスを思い描きますが、この写真もそんな一瞬なのでしょうか。長いくちばしを天に向け、降ってくる雪を飲み込まんとしているようにも見えます。撮影角度のせいか、特徴である頭頂の赤い部分が目立たないことで、全体が白と黒のモノトーンに抑制されており、結果的に水墨画をも思わせる仕上がりとなっています。