第20回「北関東写真サロン」 審査総評 桑原史成(写真家・関東本部委員)
この度、全日本写真連盟の北関東ブロックが主催する「北関東写真サロン」で応募された1896点(応募者275名)を審査することになった。最初の予定では4月中旬に高崎市内で審査を行うことにな っていたが、いま猛威を振るっているコロナウイルスの感染拡大を避け、自宅で審査を行った。応募の作品群は4箱のケースに入れられ、その重量はおおよそ100kgは超えるであろう。
応募された撮影者は北関東ブロックの群馬県、栃木県、茨城県の会員と一般の写真家たちが多数を占めているのは言うまでもないが、この企画「北関東写真サロン」に賛同した近郷で首都圏の埼玉県、千葉県、長野県、東京都それに福島県の写真愛好家からの作品も寄せられた。
北関東は日本の首都圏の一角で、都心からほぼ100km圏内の生活圏には多彩な文化と歴史、それに農水産業などの経済がある。応募の作品を眺めて感じることは、北関東地域の豊かな自然の中に溶け込んだ人々の営みや風土が色濃く写し出されていることであった。住民たちの日々の出会い、地域産業を支える人々、古式豊かな伝承の儀式やお祭りなど、如何にして面白い一瞬を捉えるかの苦心の跡や楽しんだ様子が窺える作品が多かった。
一般に撮影者は、「何を撮るか」と同様に「どう撮るか」について、とことん納得いく瞬間を追い求め、ねばり、自分のスタイルを貫こうとする。応募された皆さんは現代の日本の素顔を写真で表現、記録されている。身近な日常にあって、自分の画面にどのようなドラマのワンシーンを写し出せるか、とことん楽しんでほしいものである。
新型コロナウイルス感染症を乗り越え未来へつなごう
全日本写真連盟 関東本部委員長 佐藤親正
2020年第20回北関東写真サロンは、新型コロナウイルス感染症の世界的な感染爆発により、受賞者と役員の命を第一に考え、作品展示と表彰式を断念し、賞と写真集を郵送にてお送りする事になりました。また、審査会も開催できず、桑原史成先生には先生の自宅審査をお願いし、大変にご苦労をお掛け致しました。心より感謝と御礼を申し上げます。本来であればオリンピックイヤーであり、祝賀ムード一色の希望にあふれた年でありました。しかし、緊急事態宣言も発令され、会員の健康を第一に考え活動の自粛を余儀なくされました。節目の20回展が試練の忘れられないコンテストになってしまいました。19回展より県知事賞が付与されるなど着実に発展して参りました。この試練を踏み台にして更に強靭な運営で発展していただく事を祈念致しております。
入賞入選された皆様にお祝いを申し上げます。櫻木賢治様の最優秀賞「すごーい!」は、子供達とSLの素晴らしい作品です。子供達の驚き、感動がとても感じる作品で、決定的瞬間を撮りえた価値を評価されたと思いました。今回の応募作品は、広い視点で捉えられたと思いました。こうした文化活動は、現社会に求められるコミュニケーションを育み人生の生き甲斐や潤いを生んできたと確信致しております。北関東写真サロンは、茨城県、栃木県、群馬県から構成された組織で運営され、全日本写真連盟ならではの取り組みだと思います。首都圏を取り巻く美しい自然豊かな私達の地域から人生の喜びを活力あふれる運動として示して行きたいと願っております。
JR東日本の両毛線(高崎~小山)の記録を調べると、2018年5月19日にSLのD51が半世紀ぶりに5輌の客車を牽引して、足利と小山間で運行されたようである。かつて貨物を運ぶ重量型の蒸気機関車として人気の高い「デゴイチ」を力強く、躍動美をやや長い焦点距離(100mm位?)のレンズで撮影している。この写真に何より“華”を添えたのは雨合羽の子供達の存在だが、難題とされる黒色のSLの撮影は曇天が幸いした。
茨城県には北関東の他県には無い海が有り、その海岸線は195km余りとされる。約1万キロの彼方のアメリカ大陸から太陽がやって来る。応募の写真の撮影にはテレコンバータを使用したとしても1000数百mmの超望遠のレンズにして撮影している。漁船を太陽に絡ませて、さらに海鳥がそのど真ん中に入ってくれた幸運も素晴らし実力の現れなのだろう。
何処かの小高い丘の神社から行事を終えての帰路と思われる。神主を先頭にやや年配の世話役の皆さんであろう。年長者に階段の下りは難儀な歩行と言えよう。笑みをたたえながら足を踏み外さないよう降りてくるところを、下から狙ったシャッターチャンスが見事である。
2014年、世界遺産に登録された富岡製糸場と絹産業遺産群は日本が近代化に大きく貢献した歴史を持っている。いま、如何程の養蚕の生産量が有るかは把握していない。カイコ(繭)の出荷作業の現場は、いにしえの日本の農家の人びとが辿った故郷の情景を彷彿させてくれる。
仔馬をセリ市にかけるための移送ではないと思われるが、何かの催し会場に到着したところなのか定かではない。山陰の農村に育った僕には、家畜を扱う現場のリアリティが郷愁として伝わって来た。見事なスナップ写真である。
取手市の農業公園で撮影されたと記されている。撮影の時間は早朝であろうと思われる。小枝についた水滴がガラス玉に写るかのように可愛い花を映し込んでいる。太陽が昇り気温が上がると、残された余命(時間)は余りにも短く切ないが、美しい自然の現象には心和まされる
茨城県の筑西市で筑波山を撮影された“ダイヤモンド”を見事に捉えた完璧なワンチャンスの名作と言えよう。さらに湖面を駆け抜ける水鳥が作品の左側に写り込んでいるではないか。撮影場所、時間、気象状況を読み込んでの成果であろう
都市部で生活する僕の目には、映画のスチール写真かと見紛うばかりである。写された人たちの表情をルーペで覗き込んで、現実に婚姻の儀式が進行しているのだと思い知らされた。前方の田圃や後方の林を程よく写し込んだ構図は一幅の絵画を見るようである。
撮影された富士山は、作者の記録によると筑波山頂(つくば市)とある。標高877mの筑波山の山頂から富士山(3776m)までの直線距離は約160kmのようだ。眼前に広がる灯りがともった街並みとの調和も幻想的で、難題の被写体に挑み夜間の撮影を成功させたことを称えたい。
古民家はかつての裕福な農家だったろうか。地方の自治体で管理されていて、保存と展示が営まれているのだろう。撮影地は「ひたちなか」と記されている。古民家を訪ね、咲き誇る花畑を行き交う人々との調和が心地よく、平和で安穏な気持ちにさせてくれる一枚である。