「全日本写真展2017」(全日本写真連盟、朝日新聞社主催、株式会社ニコンイメージングジャパン協賛、全国高等学校文化連盟後援)の審査が、朝日新聞東京本社であった。「身のまわりのくらしや風俗から、経済・政治まで、独自の視点で『今』を切りとる」がテーマ。応募作5992点から、入賞作品143点(一般の部99点、高校生の部44点)が選ばれた。高校生の部ではウェブ応募も受け付けた。
◇審査委員(敬称略)
▽松本徳彦(写真家、日本写真家協会副会長)
▽浅田政志(写真家)
▽清水哲朗(写真家)
▽若子jet(写真家)
▽及川研一(全国高等学校文化連盟写真専門部部会長)
▽松井寛(全日本写真連盟西部本部委員長)
▽伊藤滋(全日本写真連盟中部本部委員長)
▽大野明(朝日新聞東京本社映像報道部長)
▽佐々木広人(アサヒカメラ編集長)
■総評
◆一般の部
「現代を撮る」のはむずかしい。だからやりがいがある。今回はインパクトのある写真がちょっと少なかった。ただ、上位の作品はテーマを決めてねらったものが多く、時間軸を感じさせ、シーンを設定したものなど、昨年にはなかった切り口が目立った。定点観測をした組み写真は新鮮だった。この作品が選ばれたことで撮影手法や選択肢に幅があることを示せた。
時代を先取りした写真、もうちょっと斬新な写真を選びたかった。肖像権の問題があるせいか、ストリート写真が少なく、街に出ている感が弱かった。作品はバラエティーに富んでいるが、どこかで見たことのあるようなものが多かった。「トライ&エラー」を繰り返した勢いのある作品を見たい。
■組写真の作品は、システム上最も大きく表示される並べ方をしています。
全日本写真展2017巡回写真展のご案内
光の勝利だ。左から差す光が赤い服を着た女の子を浮かび上がらせている。女の子の表情もすごくいい。ただ撮られているというのではなく、お母さんの着付けに「うまく着飾らせて」という期待感と、どうなるのかなという「不安感」がない交ぜになっている。それが眼の強さに表れている。
ホタテの貝殻の捨て場だ。撮影者によると場所は青森県上北郡で、ふつうは粉砕して道路を舗装するアスファルトに混ぜたりするが、ここの自治体は財政上の理由で行っていないらしい。処分に困っているようだ。「おいしいおいしい」と食べるが、貝殻がどうなっているか考えてもらうということでは意味がある。一方で美しい作品は「自然の華」という感じもする。そのまま撮ればどす黒くなるが、夕日が落ちる寸前の光線の状態をうまく計算し、「風景的」に美しくなる瞬間を捉えたのがよかった。
祭りやポートレートなどをねらいがちだが、「鷹匠」という日本の「風習」や「文化的もの」を捉えている。この伝統文化がいつまで続くのかということで記録的な意味合いもある。鷹匠の服装も現代的でまさに「今」が写っている。猛禽の形も美しく、インパクトの強い絶好のシーンを捉えている。シンプルな背景が主役を引き立たせている。
閉店した元居酒屋が朽ち果て行く姿を定点観測した。最初は何げなく撮ったのか、それともゴールが見えていたのか。今回、組み写真で時間をかけて撮った作品が少なかった。光が一定しているのもいい。時間の経過は上からの順でいいのか、入り口に板を張ったのはガラスが割れ、猫などの侵入を食い止めるためなのか。色々想像させてくれる。このお店がその後どうなったか。
撮った時のシチュエーションを想像すると相当おもしろい。レンズを向けにくいこの時代だ。撮影者は60歳代。この中に自分の孫がひとりでもいたら撮りやすかっただろう。それにしても若者集団の圧倒的なエネルギーに負けないで向き合っているのがすごい。なかなか撮れない集合写真だ。記録写真としても意味がある。還暦の同窓会でこの写真を見たら、みんなどんな反応を示すだろうか。
オーソドックスである意味、古典的な写真だ。ひとり1人個性が違う人をうまく集めた。静と動のマッチングもいい。それぞれの写真がちゃんと生きている。組み写真はなんとなく並べるのではなく、ねらいを決め、何をどう見せたいかが明確に伝わってくることが大切だ。