審査 総本部事務局長 久松弘樹
総評
新潟県らしい豊かな自然、その中で育まれた文化、そしてその中で生きていらっしゃる人々の表情。それらが見事に表現された作品が、出展されていたと思います。今回気づいたのは、昨今は撮影した写真を見てレタッチソフトで修整して作品を完成させがちなところですが、撮影段階からどういう作品に仕上げるかというイメージをしっかり持って、撮影時に構図から、レンズ選択、露出を計算し、撮影後のレタッチ、トリミングも緻密に考えて撮影し、仕上げられた作品が多く出展されていたと思います。また、水平垂直をしっかり構えて撮影され、映っている被写体により集中して鑑賞できる作品が多く、全体として丁寧に仕上げられた作品が多く見られました。日々、会員の皆さん同士が、写真を持ち寄って講評しあっていることが、表現や技術の向上につながっていること、と感じました。
夕暮れの田植えを終えたばかりの田んぼの水面に写る列車をとらえた作品です。米どころの新潟では、初夏の頃、清々しく広がる空を背景に、水をたたえた田園を列車が通り過ぎる風景が、とても絵になります。作者は、撮影時から水面に映った列車を上下逆転して表現することをイメージ。ファインダー内では正像の部分を外し撮影。時間帯も茜色の夕空になって列車がシルエットになる時間を選び、シンプルな色構成となり印象的な作品に仕上がりました。流し撮りで稲の列がぶれて帯となり、列車の背後から光芒が広がっているようにも感じます。
山間に棚田が点在する長岡市の山古志地区で撮影された里山の風景です。たまたまいい場面に出会いパシャリと撮った写真ではなく、農家のご夫婦、軽トラック、農機具を、緻密に計算して配置したポートレート写真でもあります。木々の合間から山々を望む場所を計算してロケハンし、ご夫婦も影になることない立ち位置で、スタジオで撮ったような写真とも感じます。画像処理も、暗部を落としすぎずシルエットになり、映るべきところもしっかり出された、素晴らしい作品浮かび上がっています。
薬を手にするお父様の手を、撮影した作品です。日々薬が欠かせなくなった今に憂いながらも、ふと薬の小包を手にした自身の手の皺に、我が人生を振り返る、お父様の想いが滲み出てた作品です。光が手のひらに逆光で入り、皺一本一本が浮き出て、重ねられた時間を感じさせます。画像処理も、周辺を自然に落とし、薬の包み紙は白く飛ばし、手の皺が強調されお父様の「表情」も感じさせる、モノクロならではの作品です。
最初見ると、一頭の牛がこっちを見ているのかと思いましたが、長岡市山古志地区の牛の角付きで、牛が頭をぶつけている場面です。角付きはとても迫力があり、牛の大きさを表現するため体全体を見せる構図が多いですが、あえて大胆に頭の部分のみを切りとる構図で、何だろうと思わせる作品です。少しブレも出ていますが、逆に荒々しさの効果が出ています。牛の顔を合わせた左右対称になる瞬間を待って、タイトル通り「鬼面」の表現に仕上がっています。