「一人暮らし」 田辺三郎(久居)
高齢者の方の一人暮らしは、撮り方によっては「侘しさ」が強く前面に押し出されたりしますが、この作品は毎日規則正しく、何らかの「張り」を持って暮らされているような雰囲気を感じさせます。流し、路地、猫、植木など界隈の生活感もたっぷり盛り込みながらも、くどさもなく、日常をありのままに率直に描いています。(大西)
「抱擁」 西尾 明(久居)
巨大な人形はお祭りの象徴か幼稚園の催しなどの一環か。赤鬼くんがあまり怖そうに見えないのは、こうした地域に馴染んでいる証拠。そこに包まれている女の子も穏やかな顔で幸せそう。この単純とも思える「構図」がしっくり当てはまるのは黒バックだからなのでしょう。無理をせず、ほんの一瞬の幸せに寄り添うのも写真。(大西)
「待ち合わせ」 野瀬みつ子(久居)
ママ友とそのお子さんたち。何かの拍子に賑やか過ぎてしまう傾向にありますが、ここはまだ序盤。これからみなさんエキサイトしそう。そんな軽やかで明るいスナップ。最大のポイントは左のママのあげた右足。棒立ちならば普通の写真でした。周囲を黒く焼きこむようにしていますが、あまりそうした必要はなかったと思います。(大西)
「僕らの遊び場」 吉川 彰(津)
偶然こんな瞬間が訪れたのだと思いますが、3人のポーズが決まっています。やんちゃな男の子3人でしょうから、ここで飛び回っていたはず。縦位置での切り取り方は、60年代の名作ドキュメント写真を見ているかのように、そのフレームがしっかりしています。うっすら背景のトーンも出ていますし、硬めのモノクロではあるがきれいです。(大西)
「笑顔」 上村 雅(津)
ここでおじいちゃんはどんな話を女の子に聞かせていたのでしょうか。和尚さんのようなおじいちゃんは、きっと人にやさしい時間をこうしていつも提供しているのでしょう。地域の穏やかな日常をここから想像させます。おじいちゃんの服が少し背景に溶け込みそうになっていのが気がかりですが、その分、左の女の子の抱く犬が印象的です。(大西)
「帰り道」 木村正美(津)
昔の街並みが残る道を帰りゆく男性は何歳ぐらいの方か。小粋に半纏を肩にしているところがこの写真の最大のポイント。望遠側で捉えたことにより、圧縮感が効果的な絵となりました。また背景の二人の女性も効果的な入り方。ただしこの写真も、あまり意味のない周囲の黒い焼き込み。ここは街並の「質感」を出すべきところ。(大西)
「ふれあい」 安藤宏幸(エンゼル)
夏の朝。巡業先の宿舎で稽古をする力士と、通りがかった子どもたちとの、ほのぼのとしたやりとり。厳しい稽古の合間に見せた柔らかな笑顔が、しばし蒸し暑さを忘れさせてくれる。欲を言えば、もう少し左に立って撮影し、子どもたちの表情も見えるとよかった。(山本)
「子鬼社参」 小島康生(エンゼル)
国の重要無形民俗文化財に指定された祭りのひとコマ。境内を駆け抜ける子どもの鬼と袴姿の男衆を逆光でとらえることで、もうもうと上がる砂煙を強調、画面に躍動感がプラスされた。祭りのにぎやかさも写し撮られ、男衆のかけ声や足音も聞こえてくるようだ。(山本)
「ぬすみみ」 横井美代子(エンゼル)
平仮名のタイトルを見て一瞬「?」が頭に浮かんだが、作品を見て納得。「盗み見」だ。午後の日差しを浴びて風に髪をなびかせた少女たちの、ちょっとはにかんだ表情とはまったく無関係に覗く赤い仮面の強烈な違和感。画面下の影も不気味さに一役買っている。(山本)