審査 写真家・関東本部委員 鈴木一雄
【総評】
昨年は新型コロナ渦の影響で撮影も十分にできず、今回の応募点数はかなり減るのではないかと危惧していました。ところが、応募点数では前回をわずかに上回ったと知り、審査員として本当にうれしく思いました。何よりも、写真に対する強い思いと、このフォトコンテストを楽しみにしているたくさんの熱意が伝わってきました。
“写真”が愛好者の一人ひとりにとってどれほど重要で、どれほど生きがいになっているのか、そのことが問われる世の中になってきたと思います。写真というものが、新型コロナ渦における閉塞的な、忍耐的な生活を乗り切るエネルギーになりうるかが試されているといってもよいでしょう。私自身も、被写体に対峙する喜びとシャッターを切れることの感動を忘れずに、何とかこのつらい日々を乗り切っていきたい、そして、少しでも人の手助けになれればという思いを高めているところです。
さて、今回の審査結果を振り返りますと、たいへんに充実した内容でした。入賞作品をご覧になってもお分かりになるように、見事なシャッターチャンスをとらえていたり、素晴らしい撮影技術で表現したり、新鮮な視線で描いたりと、その努力と感性に敬意を表します。とりわけ、最優秀賞の岡田さんの作品をはじめとする上位作品には、それらの感動が凝縮されているといえます。また、それ以外の入選作品も、じっくりと鑑賞していただきたいと思います。みなさんのさらなる奮闘を期待します。
一次審査の時から、作品を手にした瞬間に強烈なインパクトを放っていました。雄大なスケール感、自然現象の躍動感、大空を舞台とする生命のチカラ、そして絶妙な光線状態すべてが、奇跡的にもこの画面にまとまって描かれています。狙ってとらえられるものではなく、出会えただけでもこのように描けるものでもありません。強運と瞬発力、そして技術が連動して描けた作品です。雷雲を背景に大空を舞うシラサギに、感動です。
すやすやと眠っている幸せそうな赤ちゃんの背景が、炎と煙になっています。一瞬、ドキッとさせられる作品ですが、鑑賞者の想像を掻き立てる内容になりました。農作業の人が赤ちゃんを畦に置いている状況ではないことは、おしゃれな服装が証明しています。結局、野焼きを見物に来た方の赤ちゃんということですが、他の要素を捨象したことが正解でした。その結果、ミステリアスな内容を孕みながら作品の力強さを生み出しました。
これが現実の風景写真であろうかと思わせるほど、まるで絵画のような世界観です。露出をアンダーにコントロールしながら、焼けている空の赤とわずかな氷部分の輝きで、独特の光景を描きました。画面の大半が黒くつぶれているにもかかわらず、雄大なスケール感が宿っています。その決め手となったのが、水たまりにいる三羽のサギです。よくぞ、三羽三様の姿をとらえました。太陽部分を大胆に半分で切っているのが見事でした。
山を登っている時にこのような光景に出会えたら、疲れが一気に吹き飛んでしまうでしょう。鮮やかに咲き誇るミヤマヤエムラサキとブナの巨木がコンビを組んで、見事な初夏の爽快感を奏でています。センチ単位のカメラ位置の調整とレンズの焦点距離の選択を上手に組み合わせてこそ成しえた画面構成、フレーミングです。花の最盛期というシャッターチャンスだけではなく、作者の卓越した技量がなければ生まれない作品です。
今回の応募作品の中には、作者の感性を活かした創作作品が少なからずありましたが、その中で最も上位に推挙されたのがこの「夏の記憶」でした。まず、被写体としての素材が良かったですね。海辺などの代表的な夏のシーンではなく、何気ない背景の街角のスナップをとらえたのが功を奏しました。そして、それを不思議な模様の透かし絵を重ねたことで、すてきな心象風景が生まれました。新鮮な感覚を評価しました。
手染めの鯉のぼりは、川の水にさらして糊を落とすという工程があるそうですが、これがそうでしょうか。水路に大きな鯉のぼりが横たわって、こちらに迫ってきます。その上の青空には、横一列になって鯉のぼりの集団が風に吹かれて泳いでいます。この対比があってこそ、作品の味わいが深まりました。もちろん、カメラ位置といい、遠近感の出し方といい、広角レンズの使い方が秀逸だったことが、賞を勝ち得た大きな要素でした。
画面構成も、色彩も、そして光線もたいへんにシンプルながら、印象深い作品に仕上がりました。色彩は、黒バックに浮き上がっている熟した柿と二羽のサギだけというすっきりしたもので、視覚的に印象に残ります。何よりも、残り柿の上に止まっているアオサギとシラサギがあたかも見つめ合っているように見え、物語性が宿りました。光線状況との組み合わせを考えると、たいへん貴重なシャッターチャンスを捉えた努力も評価されます。