審査 写真家・関東本部委員 古市智之
【総評】
第24回北関東写真サロンに応募いただきありがとうございます。応募された作品はバラエティーに富み、楽しく選考できました。北関東三県は私もよく撮影に訪れるところでもあり、とても親近感を覚えています。風景写真ではよく見知った撮影地もありましたが、それぞれが自らの視点で表現していてオリジナリティーを感じました。これらは風景写真のみならず、ジャンルを問わず同じことです。お祭りでも単なるイベントとして撮っただけでは、写真巧者が集うフォトコンテストでは勝ちきれません。そこに何かひとつでも他者との違いを見出して欲しいです。もちろん最初から上手くいくことはないでしょう。それでもそのように意識し続けることで撮影スキルは上達していくはずです。もちろん何より写真を楽しむことが大切なのは言わずもがなです。
これ以上ない完璧なライティングです。これが偶然か鈴木さん自身が仕掛けたものか、どちらにせよタチアオイが暗闇から浮かび上がり、沈船を弔うかのように感じられ、ひときわ印象的な作品となっています。船の縁が光っていることも、やがて忘れられて行くであろうこの船が最後の存在感を訴えているようで効果的です。主を失い、打ち捨てられて朽ちて行く船の悲しみがストレートに伝わってきて、まさに諸行無常の響きが感じられました。
素晴らしいタイミングでシャッターを切っています。大道芸を写した写真は、ともすればただのイベント紹介のようになってしまうのですが、しっかりと自分の視点を持って作品化している点がお見事です。しゃぼん玉の被膜の文様が美しく映えているのはもちろんのこと、画面右の女性が小さな子供のようにはしゃいでいるのも良いですね。見ている人を童心に返す、バブルパフォーマンスの楽しさもよく伝わってきて、この点も文句なしです。
赤く染まった空の色を反射する水辺の風景だけでもそれなりに美しいと思うのですが、そこに通りがかった船を組み合わせた着眼点が素晴らしいです。これによって航跡が描く美しい文様が主題として浮かび上がり、静から動への風景に変貌させています。船や人物を点景として扱う風景写真はよくありますが、この作品はただ船を点景として扱うのではなく、そこからもたらさせる一瞬の映像を主題としたことが、他とは一線を画していました。
なんと言う可愛らしさでしょうか。キョトンとした表情やカメラを見つめるつぶらな瞳など全てが愛らしいです。ここまでならよくある写真で終わってしまうのですが、魚眼レンズを用いてデフォルメしたことで、さらに赤ちゃんに引き込まれるような効果を生み出しています。魚眼レンズは視覚効果の面白さばかりに目が行ってしまい、内容が伴わない作品も多いのですが、この作品はその特性が内容を補強する材料にもなっていて文句なしです。
侘び寂びを映像で表すとなるとこのような感じになるのでしょう。まさに「もののあわれ」を誘う作品です。背後に鳥居を浮かび上がらせたことで、この場所が俗界とは異なる空間であることをイメージさせたこともニクイです。朽ちる寸前だからこそ、彼岸花が持つ幽霊花や死人花などの異名がことさら印象深くなり、怪しくも美しい雰囲気が存分に引き出されています。盛りを過ぎた彼岸花に美しさを発見した視点が素晴らしいですね。
あらゆる格闘技の中で一番強いのは相撲であると聞いたことがありますが、これほどの巨体を維持し続ける鍛錬の熱気が、背中にびっしょりと汗をかいた姿から伝わってきます。黙々と稽古に励む力士の力強さを描くと同時に、無駄な要素をすべて排除したことから見えてくるちょっとコミカルな印象とのギャップがこの作品の魅力。少しでも空間に余裕があると、この面白さは半減してしまうでしょう。構図の妙が光っていました。
ホタルの写真というと、必要以上に数を増やした不自然な写真も多いのですが、この作品にはそのようなあざとさは見られません。むしろこれが自然なのだなと素直に受け入れられる点をドキュメンタリー作品として高く評価しました。社殿の様子から人里に近い場所だとわかりますが、このような何気ないところで息づく命の尊さが伝わってくる作品でした。「写真」で伝えるべきはこのようなもの。決して見た目の派手さではないと思います。