審査 写真家・関東本部委員 吉野信
今回のコンテストに、たくさんの応募をいただきましたことを感謝したいと思います。写真愛好家が多い日本の中でも、特に北関東の人々は写真の世界には特別の関心と興味を惹かれたということが、全ての作品を見終わったときに感じられたことが印象に残っています。
ひところに比べてプリントの質も均一化され美しい仕上げで、プリントを送るごとに楽しみが募ってきたのですが、一人一賞ということでやむなくセレクトをせざるを得なかったというのが,正直な感想です。とはいえ、全ての作品が同じレベルだというのではなく、自分よがりのものも少なくなかったといえます。
コンテストである以上、プリントの質は勿論のこと、何が狙いだったかということがはっきりしていれば、どの部分をどのタイミングでいつシャツターを切るのかということが、わかると思うのですが、その視点がずれたり曖昧だったりしたものも少なくありませんでした。「プロじゃないからそんなのは当たり前じゃないか」という言葉も聞こえてくるかもしれませんが、人に見せ人の心をしっかりとつかみとる作品を写すということは、けっして優しくはないかもしれませんが、自分なりの目的意識と感性を打ち出すことは、特に大事なことに思えます。
現在は、デジタルカメラの普及と機材の質の向上で、だれでも気楽に写真が写せる時代になった反面、コンテストの世界はそれなりの厳しさがあることを忘れずに、来年の応募に向けてさらなる精進をお願いしたいと思います。
おそらくお祭りの時のスナップだと思いますが、画面の切り取り方が正確で無駄がなく、見るものに強い印象を与えてくれます。両手を広げて驚かそうという狙いだったのでしょうが、少年たちのポーズと表情が楽しい驚きを感じたというように見えます。どんな顔をしたカッパなのか、反対側から見てみたいと思うぐらいこの作品は楽しい雰囲気と喜びに満ちあふれています。
カワセミを写した作品は数多く色々な場所で見ていますが、くちばしに魚ではなくカエルを挟んだこの映像は珍しいだけではなく、カワセミの食物連鎖の珍しい世界を垣間見せてくれます。長く伸び口を開けたカエルのポーズが強く目に焼き付き,自然界の営みの機微を見せてくれながらも、画面構成の確かさが、野鳥の世界をさらに格調高いものへと高めています。
お祭りの櫓の席を切り撮ったこの作品は、おかめの面をつけた娘さんを見守る母親の優しいまなざしに加えて、右側のキツネと左側のおかめがその様子をじっと見守る瞬間を見事なタイミングで切り撮っています。無駄のない画面構成で作画されているのは、作者はよく観察してこういった瞬間が来ることを計算し、その時を狙って心躍らせながらシャツターを切ったからでしょう。
新緑に彩られた遊歩道の上に飾られた色とりどりの雨傘、雨に濡れた歩道の上を母親に手を引かれて歩く二人の幼子。この場合は、前からではなく後ろ姿であることがより強い印象を与えてくれます。レンズに映り込んだ雨の水滴が、ほどよいアクセントになって春の季節の暖かさと美しさをさらに強調しているように思われます。付近に人の姿が見えないことがこの場の雰囲気を盛り上げているといえるでしょう。
どこの水族館での撮影なのでしょうか?今流行の回遊式の水槽の中に、サンタクロースの衣装を着けた潜水夫が挨拶にやってきて、それを見た子供たちが喜びながら近寄っていった瞬間を見事に捉えています。観客がほどよい人数だったためこの場の楽しそうな雰囲気を的確に捉えることに成功したといえます。物事のタイミングの瞬間はいつどんなときにやってくるかは時の運かもしれません。
社の壁に飾られた巨大な草履の奉納物がひときわ目を引きます。「奉納」の赤い色の文字の鮮やかさ、色を移し始めた木の葉の色と、薬王院の社のたたずまいが堂々として、厳かな雰囲気が充満していて、神聖な気が周りを包んでいます。社の右側にたたずむ人の赤い色の衣装の色がアクセントになって、人の日常の営みの喜びを語りつないでいる様子が表現されているように思えます。
秋の季節の紅葉に彩られた樹々がライトアップされ、独特の雰囲気を醸し出しています。櫛目がついた石庭の砂の表面が横からのライトの光で日中では見られない世界を演出しています。寺院独特の窓枠を画面の前面に取り入れ、全体の雰囲気をスクエアで表現したセンスがひときわ目を引き、静かで厳かなたたずまいをさらに高い次元の世界へと誘ってくれるように思われます。