第19回全日本モノクロ写真展(全日本写真連盟関東本部、朝日新聞社主催)の入賞作品84点が決まった。全国から452人、2703点の応募があった。審査には写真家の中藤毅彦さんと伏見美雪・アサヒカメラ編集長(当時)があたった。
■総評 転換期、映す鏡に 写真家・中藤毅彦さん
コロナ禍の中であったが、熱気のある作品が数多く集まったことに安心した。
全体的に見ると、祭りや伝統行事といったモチーフを撮った作品が、非常に多い印象を受けた。無論、日本という国に生きるうえで、良き伝統を見つめ直すことは大切だと思う。そうした被写体は、モノクロームとの相性も抜群だ。
しかしながら、写真は時代を映す鏡でもあるべきなのだ。クラシックな表現技法とも言えるモノクロームではあるが、手堅くまとめるだけでなく、新たなチャレンジがあってもいいだろう。
世界が大きな時代の転換期にある今、リアルタイムの現代を切り取った作品が、今後もっと増えることを期待している。
白装束の人のマスクは、単なるほこりよけかも知れない。しかし、マスクという象徴的な要素が含まれたことは偶然を超えた必然であって、暗示的に時代が映った作品といえるだろう。逆光の美しさが際立つが、それ以上に影が語っているのは秀逸だ。色彩の情報を排し、世界を光と影で捉えるモノクロ写真の本質を、見事に体現している。
グッと力のこもった手足の表情は、何か悔しい気持ちを押し殺しているのだろうか。複雑な造形を絡み合わせ、構成主義の絵画のごとく切り取った絵作りが絶妙だ。ピントの合った足の裏から、なだらかにぼけていく描写に、白黒の階調の奥深さが見える。
日常生活で見かけることが多くはないであろう托鉢僧が、4人も写っている。衣の黒が画面を引き締め、近景と遠景の双方に見どころを生み出している。さらに、手前を横切る僧侶が、写真に動きと物語をもたらしている。
何かを一心に見つめる少女の瞳に映っているのは、窓から差し込む光だろうか、きれいなキャッチライトに視線が吸い込まれる。左頬からグラデーションを描く光の当たり方も、背景に光の丸いぼけが一つあるのも、非常に美しく効果的だ。