第15回全日本モノクロ写真展(全日本写真連盟関東本部、朝日新聞社主催)の入賞作品91点を紹介します。
審査員 熊切圭介(写真家・日本写真家協会会長)、佐々木広人(アサヒカメラ編集長)
【総評】
我々が日常的に使っている写真は、フィルムの時代、さらにそれ以前の時代からの長い歴史をもっているが、世界に存在するもの、目に見えるものは、すべて被写体になる。そこに写真というメディアの持つ特異性と面白さがある。多種多様なモチーフをどう撮るか、どう表現するか、作者の感性や想像力の違いによって大きく変わるが、そこに作者の個性が現れる。欧米にアナモルフォーシス(ひずみ絵)という絵画技法があるが、一枚の絵が見る角度によって絵柄が変わるらしい。最新のデジタル技術を使えば絵柄が似ていても、全く別の世界を作り出すこともできるだろうが、心にふれる情景を、日常性の中に見つける楽しさ魅力は失いたくないし、大事にしたいものだ。
人間と馬とのこまやかな情感が色濃く漂う作品だ。競技を終えた後、安堵(あんど)の様子をうかがわせる女性騎手と馬。騎手のやや緊張感が残っている背中の表情と、左側の、目を大きく見開いている馬のほんの一瞬の表情との対比が面白い。馬場の白い柵を入れることで、画面が引き締まった。見事な構成だ。モノトーンで表現された静かで落ち着いた雰囲気が後に引く。
厳粛な神事に起きた一瞬の「珍事」。きっと現場にいた人の多くは、神官たちのEXILE(エグザイル)のダンスのようなコミカルな動きを見逃していたはずだ。しかし、カメラの眼(め)は肉眼では気づきもしなかった出来事をとらえた。写真の原点、スナップ撮影の基本を見る思いだ。モノトーンでまとめたことでさらに緊張感が増し、コミカルさが際だった。
人気漫画「ゲゲゲの鬼太郎」の目玉おやじをほうふつとさせるかかしは、その存在だけで十分にユーモラスだ。さらにそれを、広角レンズで下からあおり、コントラストの高いモノクロ作品に仕上げ、おどろおどろしい雰囲気を醸し出すことに成功した。カラーだったら、ここまでの雰囲気は出ないだろう。モノクロ作品にしかできない演出だ。
夜空に打ち上がる大花火は、1733年に、その前年に起こった関西での災禍の犠牲者を弔うために打ち上げられたのが最初のようだ。それ以来毎年のように両国で花火大会が催されている。夜空に上がった花火が、一瞬のうちに消え去る姿に風情を感じ、情感豊かに表現した作品が多いが、「花火降る夜」は、そうした従来からのイメージを大きく変える作品だ。大胆でダイナミックな画面構成から、作品の発想の新鮮さ、ユニークさを強く感じる。天が裂け花火が崩れをうって振り注ぐような光景に思わず目をむいた。スローシャッターで花火を撮影し、前景に黒々とした樹のシルエットを大胆に捉えたことで、異次元の世界を創り出していて見事だ。
ステージ上だろうか、ハイヒールを履いた女性数人の脚元が暗がりの中でライトを浴びている。みな白いドレスを着ているが、顔は見えず、ふくらはぎを照らすライトと影、そしてアンクレットの輝きがひときわ目を引く。光と影という写真の原点のテーマを強く意識したことで、艶かしくも上品に仕上がっている。しかも、被写体が謎めいていて、かつモノクロ写真ということもあり、あれこれ想像して楽しむ余地を残している。実に魅力的だ。