審査 写真家・全日本写真連盟副会長 榎並悦子
東北ブロック6県(青森、秋田、岩手、山形、宮城、福島)が力を合わせる第15回東北写真サロンには、東北圏外からの応募も含め1036点の作品が集まりました。内容はバラエティーに富んでいましたが、上位作品には各県内の祭りや風物をとらえつつ、一工夫を加えて印象を強めたものが残りました。技術的に素晴らしい作品でも、コンテストである以上、他とは違ったアングルや切り取りを意識して果敢にチャレンジされるといいでしょう。
沈みゆく太陽をじっと見守っているふたり。目の前には幾重にも重なる彩紋が美しく水面の表情を伝えています。作者は夕陽をねらって構えていたのだと思いますが、偶然現れた人物を邪魔だと思わず画面に配するという機転が功を奏しました。夕陽の映り込みを道に例えたタイトルも物語を深めていますね。両サイドの樹もここではアクセントとなり、画面を引き締めています。
広い空に見事な螺旋を描きながら回転するジェット。見ているだけで爆音が響いてきそうな臨場感に包まれています。まっすぐに上方へ向かう機体と回転する機体の組合せも絶妙のタイミングでとらえています。画面下部に見物の人たちを入れたことでサイズ感もよく伝わり、俄然見応えのある作品となりました。
この必死の声援、画面対角線上に配置された球児は今にも倒れんばかりに叫んでいるように見えて、構図のうまさに唸りました。球場の喧噪の中、声援はどこまで届いているのかわかりませんが、この瞬間は無音であるような不思議な感覚を覚えました。試合のひとつひとつが青春の貴重な一場面であることを、改めて感じさせる作品です。
窓辺に佇む女性に向けられた眼差しに深い愛情を感じ取りました。作者の母親でしょうか? 日の当たるその場所はひとり暮らしの彼女にとってお気に入りの場所に違いないでしょう。淡々と過ごす日常が、何のまやかしもなく丁寧に切り撮られています。さりげなく鉢植えの緑を添えたことで、なぜかほっとする作品にまとめています。
黒石の狐の嫁入り行列での一コマでしょうか。新郎新婦の狐を見事な配置で切り撮った傑作です。ただでさえ、周囲の見物人をどう処理するか難しい祭りですが、行列の出発前か何かのタイミングを生かし、黒背景で被写界深度を活用してここまでシンプルにまとめあげたのはお見事です。雌狐の顔はもう少し明るく仕上げるとさらに印象が強まるでしょう。
風景としてとらえたゴジラ岩の写真はよく目にしますが、この作品はひとひねりしてユーモアを盛り込んだところに作者のオリジナリティーが感じられます。まずゴジラの口から光芒があふれる夕陽の位置。そして和装の女性がパワーを送っているようなシルエット。映えスポットで両者が見事に合わさって成立した作品。作者の遊び心とセンスを感じました。
振袖姿の娘さんたちが祭りの出発前に参拝をしているようです。全員が神妙に手を合わせている場面に表れた少年。なんともバツの悪そうな、その足取りが可笑しいですね。突然のちん入者をこれ幸いととらえ、画題をそちらにシフトさせたところは流石です。タイトルと相まって笑いを誘う作品となりました。
遡上を終えた鮭は命も尽き、無残に傷ついた体を横たえていますが、作者はその姿を慈しむように、畏敬を持ってとらえていると思いました。タイトルにその気持ちが表れています。PLフィルターを使用されているのでしょう、水中の小石もとらえられていて水の透明感を伝えている点も見事です。ワイドレンズの画角を活かした作画も的確でした。
トリミングによるものと思いますが、画面構成が完璧です。大迫力でとらえたジェット機はコックピットの様子まで伺えます。さらに気流による彩雲がひと味もふた味も違った見応えのある場面の描写へと繋がりました。技術もさることながら運をも引き寄せた作品だと思います。
見事なしだれ桜が続く路は望遠レンズの圧縮効果もあり、まるでおとぎの国のようです。桜の花は実際にはもっと白いと思いますが、マゼンタを強めた色彩にしたことで、非現実感が演出されていると思いました。手前の桜にピントを合わせ、遠くの人物をぼかすことで、作者の描く夢世界をうまく表しています。見ているこちらもフワフワと夢心地になりそうな素敵な作品です。