審査員:藤村大介(写真家・関東本部委員)
【総評】
コロナ禍で多くのイベントが中止になる中での被写体探しは苦労しただろうと思います。しかし良い作品を撮影できている人は、違う視点を持っています。良いシーンに巡り会えることが分かっている、ある意味決まりの瞬間にとらわれない視点を持っている方は、素晴らしい作品を撮る確率が大きいのです。決まりの「絶景ポイント」や「SNSで見かけた風景」に憧れを持つのは悪いことではありませんが、自分らしいオリジナルな視点で作品作りを心掛けると、自ずと撮影する段階で考えることが身に付きます。真似する事は最初は必要ですが、考えて自分の作品を撮影できた時の喜びは、計り知れないものだと思います。何もない河原や田んぼなどで撮影会をしてみましょう。自然と、撮影のために探す目と考える脳がフル回転で動くようになってきます。
コロナから解放されつつある今だからこそ、次回以降はもっともっとオリジナリティに溢れた作品が、どんどんと応募されてくるだろうと期待をしています。
素晴らしい作品に巡り会え感動いたしました。白鳥の飛翔はよくありますが、このような雪の中での飛翔シーンでここまで美しい写真は見た事がありません。玉ボケになった雪が望遠による圧縮効果で無数の光の玉のように輝いている様に見えます。雪が降る日ですから暗く撮影条件は厳しかったと思うのですが、プリントまでの処理、仕上げも良く、羽根の白さや透明感、跳ねた水飛沫のダイナミックさまでもが全て美しく仕上げられています。大雪が降る中で粘り強く撮影した努力の賜物と言えるでしょう。
愛らしいお子さんと傘のビニール越しに目があった瞬間。何気ない日常のワンシーンでいつでも撮れそうな1枚ですが、実はこのようなスナップショットはなかなか撮れないものです。雨の日にカメラを下げて歩いているか、傘越しでも良しと狙える視点を持っているか、スナップの醍醐味は「いつでも撮る!」から生まれる傑作があるという事なのです。
とても幻想的で美しい作品です。おそらく手前の黒くつぶれている岩を入れるかどうかを悩んだのではないかと思いますが、これはどちらも正解ですね。しかし、入れない場合、より幻想感は強くなるのですが、よくある写真になってしまいそうです。黒い部分が入ることで少しリアリティが増し、遠近感を作る事ができているので、手前、中程の島、奥の毛嵐や山並み、という3段構えの構成で距離感が掴みやすくなっています。これはネイチャーフォトでは特に大切な考え方です。
水を使った祭りや神事は多く、写真の被写体としてもよく撮られます。これは寒い時期に湯を使った神事、弾け散る水(湯)の球と湯気の迫力が良いですね。ドキュメンタリー写真の基本は、ありのまま、改竄無く、アートに転ぶ事なく状況が分かるように撮影する事です。そんな中でより良い作品にするための絵作りの努力、そこに工夫と力量が現れるのがドキュメンタリーと言えます。
この様な雪の中でも伝統的な形として結婚式が執り行われているのであれば、とても厳しい地域の特徴が出ており、それを記録する写真の役割は非常に大きな意味を持ちます。人工的に照らされた照明だけで良いところを、あえてストロボをシンクロさせ雪を写している技術は素晴らしいですね。顔など重要な部分に光った雪が被っていないので、より良く状況が判ります。
怖いもの見たさ。これは誰もが持っているのでは無いかと思う感情の一つですね。そんな視線から覗く獅子の姿は激しく舞い、今にも襲われそう。そんな気持ちを抱いていたのでしょうか、とても不安気な表情が気になります。解像感が甘く色味も偏り気味、スローシンクロで獅子は被写体ブレ、と写真自体に「美しさ」は無いものの、かえってそれが臨場感やリアルさ、ドキドキ感を誇張し、作品の味を引き出している良い作品です。
漁港には暮らしがあり、文化があります。この小屋では漁に必要な作業を行なっているのでしょう。ブイや籠など文化が伺えます。良い時間帯の撮影ですね。美しいブルーの風景は、真っ暗になる直前のブルーモーメントが終わりかけた頃、ホワイトバランスの操作で若干紫がかる色合いにするとこのような神秘的な青になります。光跡から露光時間を予想すると、この場所はかなり暗い場所なのだろうと想像できます。
大空を翔る鳥のように、人も空を自由に飛び回りたいという夢は太古の頃から変わらぬ想い。はるか先の大地は、先が見えない厚い雲に覆われています。さてこの先の運命やいかに!と言う印象でした。よく見かける様な写真に見えますが、前述の様なストーリーを思い描けばとても意味深い写真です。昔からある有名なポイントも条件や表現方法によって良い作品に変わるものです。
何十年も前から変わらぬ光景なのでしょう。お地蔵様に花を。今でも田舎にはこの様な風景があるのですね。思わず胸にジーンと響く、とても良い写真です。信仰を大切にし、そして地域も大切に思うこと。これは和の心の良い一面ではないかと思います。桜の時期に撮影したのも成功の要因ですね。