朝日新聞社が1983年に行った「21世紀に残したい日本の自然100選」を記念して始まった「いつまでも守り続けたい 日本の自然写真コンテスト」(朝日新聞社・全日本写真連盟・森林文化協会主催、ソニーマーケティング株式会社協賛)は今年、39回目を迎えました。全国から集まった作品は計1万4,727点。プリント応募が対象の[プリント部門]には896人から5,619点の応募があり、「最優秀賞」を含む65点が選ばれました。ウェブ応募の[デジタル部門]には2,164人から9,108点の作品が寄せられ、「最優秀賞 ソニー4K賞」と30歳以下の応募者を対象にした「ソニーネクストフォトグラファー賞」を含む37点が決まりました。風景や動植物、人間の営みなどをストレートに表現した作品を通じて、日本の自然の素晴らしさを再発見していただければ幸いです。
【審査委員】
海野 和男 (写真家)
中村 征夫 (写真家)
福田 健太郎 (写真家)
前川 貴行 (写真家)
米 美知子 (写真家)
坂本 修 (森林文化協会 常務理事)
小林 修 (朝日新聞出版 写真映像部長)
加藤 丈朗 (朝日新聞東京本社 映像報道部長)
中田 徹 (朝日新聞大阪本社 映像報道部長)
主催:朝日新聞社、全日本写真連盟、森林文化協会
協賛:ソニーマーケティング株式会社
※肩書は審査当時
【プリント部門総評】
2020年以降撮影の作品に限られた今回、コロナ禍の2年間の行動制限の影響があるのではないかと心配した。しかし、届いた多くの作品から撮影者が自然と向き合い、大切に思う強い気持ちが伝わってくる。上位作品は圧倒的な自然に畏敬の念を抱きながら、自分の視点で挑戦する撮影者の心意気が表れている。
全体の傾向としては風景より動物写真が多く、特に鳥の作品が多い。カメラの機能向上によって良いシーンの撮影が可能になっているが、既視感のある作品が少なくない。なぜ自然を撮るのかを改めて考えて、撮影者自身のメッセージを込めることが大事だ。毎年気になるところだが、彩度が高すぎる作品が目立つ。自然をシンプルに撮りながらも、ひと味違う着眼点がある作品を目指してほしい。
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親子のクジラだろうか。母クジラに子クジラが心を許して遊んでいるような、甘えているようなしぐさが胸に響く。太陽光が少ない、厳しい撮影条件の中で冷静に撮っている。クジラに近づけるギリギリの距離で迫力あるシーンを捉えた。命のつながりと深い信頼が感じられて、海の広がりと物語が聞こえてくる。
北海道の生態系の中で生きるクマのありのままの姿が表現されている。足裏を見せながら無防備な様子で横になるクマのじっと見つめるような片目に物語が感じられる。手前にある草木の配置もバランス良く、完成度が高い作品だ。危険という印象とは異なるクマの性格が垣間見えるようだ。
インパクトが強い不思議な写真。どう撮ったのか、すぐには理解できない面白さがある。無風の状態ゆえに撮れた1枚だ。わずかな違いで写真が大きく変わることを教えてくれる。人工物が入り込むと自然の撮影は難しいが、この場合は良い脇役になって写真を引き立てている。
撮影者は利尻島に9日間滞在し、1日だけ天候に恵まれた。作品は夕日に照らされ、非常に美しい利尻山の幻想的な光景だ。急峻な地形と風が吹き雪煙が舞う山の様相は大地の叫びのようでもあり、荘厳な山の緊張感と太陽光はドラマチックな自然の表情を一層強めてくれる。
北海道美瑛町の丘陵風景はフォトジェニック。曲線的でなだらかな土地の特徴をうまく捉えた構図は完璧。麦のディテールも面白く、働く2人の動きと位置も絶妙だ。丹精込めて、労力を惜しまず作物を育てている人への敬意と人間賛歌を感じさせる1枚だ。
森の躍動感がみなぎり、1日がこれから始まるようなすがすがしい写真。朝の霧の入り方と光の強さが相まって黄金色が美しい。シルエットの部分を少なくすることで、爽やかな希望にあふれた作品になった。作品内容とプリントの質がマッチしているのも好印象だ。
実りの秋が終わるよ、寒い冬が来るよと上を向いたエゾユキウサギが独り言を発しているような雰囲気。山の中腹まで紅葉している背景を切り抜き、生息環境と季節感がうまく入り込んだ。ウサギの姿に合うタテ位置の構図が効いている。重い機材を背負って、山に登りながら好条件を上手に捉えた作品。