審査 写真家・関東本部委員 清水哲朗
風景、スナップ、お祭りにポートレートなど、バラエティー豊かな応募作に世の中の再始動を実感。ここ数年のもどかしさから解放されたことで、撮る撮られるどちらからも喜びが伝わってきました。
全体の印象としては「点景」作品が多いように感じました。人との接触を避けていたのかもしれませんが、人物を撮りたい、でも肖像権が気になるので人物は小さめに。はまれば効果的な状況描写も、遠慮や苦肉の策、弱腰アプローチと判断されると逆効果。声かけ、近距離から対峙した作品、モデル撮影と並べると見劣りしていたのは否めません。人物写真の横顔や後ろ姿狙いも然り。こんな時代だからこそ正攻法に魅力を感じます。
応募プリントはジャンルに関わらず、粗悪な仕上げや強調しすぎた発色、プリンタのメンテナンス不足により順位を落とした作品が多数あったのが残念でした。自身の評価の低さが気になった人は最後の詰めの甘さに問題があったかもしれません。コンテストでは作品内容と合わせ、プリント(クオリティ)や用紙選択も評価材料になります。不自然な強調よりも階調の豊かさやメリハリ、仕上げの美しいプリント作品が高評価につながります。
雪景色と水鳥が織りなす壮大なシンフォニー、圧倒的スケールに息を呑みました。長く凍てついた夜の終わりを告げる、山頂に差し込む朝日。夜明け前のブルーモーメントで冷たさや厳しさを表現する方法もありますが、朝日の当たるこの時刻を選び「安堵(生きていた喜び)」「温もり」「希望」を表現し、見る側の心に響かせているのが本作の魅力。多数いる水鳥を主題にしがちなシーンですが、山を主題としたことで視点を定めたのも好判断でした。
妖艶さに惹き込まれます。表情や科を作るのはモデルの演じかたや発せられるものに左右される部分もありますが、撮影者の的確な指示がないと引き出せません。現場での雰囲気づくりやライティング(光の選びかた)、状況描写なども撮影者に求められる大切な要素。そのすべてにおいて隙がありません。モデル本人を手前に暗くぼかし、鏡を使った間接アプローチ(虚像)で表現するアイデアも見る側の想像力を煽り、妖艶さを後押ししました。
観客の表情が真剣で思わずこちらも手に汗を握ってしまう臨場感があります。成人男性が二人がかりで振るくらいの纏ですから、よほど重たいのかもしれません。高低差を感じさせる撮影ポジション、被写体が光で包まれているように描く半逆光、無駄のない画面構成と写真を立体的に表現しているのは作者の技術力の高さの証。それだけにタイトルの「危険な技」が階段で纏を振る以外に伝わってきたらさらに高評価となっていたかもしれません。
選者の余計な言葉など不要でしょう。作品とタイトルから伝わってくるイメージを素直に受け入れるだけで良いと思います。あえて選者の言葉でイメージを膨らます見方を添えるとしたら「コロナ禍」。この間に何があったのか。祭りは開催されていたのか。ご主人は何と言っていたのか。そんな数年を経てご主人が好きだった祭りが目の前で開かれている。祭りの正装で微笑むご主人にもう一度祭りを見せてあげる奥様の優しさに胸を打たれました。
人と馬、心と心が通じる時間。感受性豊かな馬は人の心を読み取ると言われますが、人は自分を受け入れてくれた馬から癒されていきます。ホースセラピーとして心のリハビリに使われたりしますが、時間帯含め、美しい光景を離れた位置から望遠レンズで切り取ったことで彼らの「大切な時間」を邪魔しなかったことが良作を生みました。美しい光景には小手先のテクニックなど不要、そのまま切り取るだけで作品になる好例でしょう。